yuhka-unoの日記

旧はてなダイアリー(http://d.hatena.ne.jp/yuhka-uno/)からの移行

香水を纏えない時、ルージュを引けない時、ハイヒールを履けない時にこそ、本は役に立つ

紀伊國屋書店の「本当は女子にこんな文庫を読んで欲しいのだ」フェアがプチ炎上し光速で終了 - NAVER まとめ

何が起こったのかは、上のNAVERまとめのタイトルの通り。

問題となった、紀伊國屋渋谷店のPOPを書き出してみた。

僕たちは
本当は女子にこんな本を
読んでいて欲しいんだ。
 
「文庫女子」という言葉を御存知でしょうか?
書店に最も足を運んでくれる20代〜30代の女性に、もっと文庫本を読んで貰いたい!と
いう思いを持ってこの秋スタートしたばかりの企画なのですが、
悲しいかな、正直、ラインナップがイマイチというか…
 
もっと、女性に力強くアピール出来る本が在るハズだ!と、
当店文庫チームが女子の意見を一切聞かずに勝手にセレクトしちゃいました。
電車内で。喫茶店で。それこそ、ハチ公前で。
こんな文庫を読んでる女性がいたら、それは、まぁ好きになっちゃうよな、という本ばかり
選んでみました。各々の作品のPOPにも是非ご注目下さい。
 
2015年、文庫本をカバンに忍ばせるのが、ホントにおしゃれピープルの最新トレンドにな
るかはハッキリ言って解りませんが、東野圭吾村上春樹しか知らないっていうのは、
やっぱりちょっと勿体無い気がするのです。

これ、もし「50〜60代の店員が、若者に本を薦める」という企画で、「僕たちは 本当は若者にこんな本を読んでいて欲しいんだ。」的な見出しをつけて、「若者の意見を一切聞かずに勝手にセレクトしちゃいました。」「こんな文庫を読んでる若者がいたら、それは、まぁ感心しちゃうよな」「東野圭吾村上春樹しか知らないっていうのは〜」みたいなこと書いたら、たぶん、若者から「ジジイうぜえええええええええ!!」って言われて、フルボッコにされると思う。若者は自分の楽しみのために本を読むんであって、おっさんから「ほぉ〜こんなの読むんだね〜感心感心」って思われるために読んでるんじゃないからね。女だってそこは同じ。モテたいなら本より他のものに投資したほうが、対費用効果が高いしね。それに、わざわざ書店に足を運ぶ人に対して、相手が女子であれ若者であれ、「お前ら、どうせ東野圭吾村上春樹ぐらいしか読んでないんだろ?」的に見たら、それは、まぁ反発されちゃうよな。
 
こういうの、男同士のごく内輪の集まりで、妄想上の「自分の理想の女の子像」みたいなのを語り合っているうちは、別に良いんだけど、それを女性一般に対して求めてしまうと、まぁ、妄想と現実の区別はつけましょうというか、女は自分に好かれたがっているはずだとナチュラルに思い込めるあたりが、ある意味、自分に自信があって羨ましいというか。ましてや、客に本を勧めるということを目的にしているはずなのに、ただ「自分の理想の女の子像」を開陳しただけって、女性差別云々を差し引いて考えたとしても、仕事としてどうなんだというか。居酒屋談義でやるべきことを、仕事でやっちゃったのね、という感じがする。自分の好きな本を開陳するのと、自分の好きな女の子像を開陳するのは、違うからね。
そもそも、売買契約って、相手のニーズに合うものを提供して、その対価として金銭を得ることなわけで、こういう「僕の理想の女の子になるために、この本を買って下さい!」っていうのは、なんか違うんじゃないのかな?相手に自分の理想像になってもらいたいっていうのは、自分のニーズであって相手のニーズじゃないんだよ。
 
うーん、例えば、「文化系男子を落としたいアナタへ!」とか「オタサーの姫になりたいアナタへ!」とか、それぐらいあからさまだったら、逆に良かったかもしれないな。「職場の上司に気に入られたいアナタへ!この本を読むと、文化系おじさんにウケますよ!」みたいな感じで(笑)。ビジネスでおじさんを接待する必要がある若者はいるからね。つまりこれ、世代や性別を超えて同じ趣味を共有したい人の言うことじゃなくて、自分を接待して欲しい人の言うことなんだよね。「女性に対してお客様意識」というか。
まぁ、文化系男子や、女の子に何か教えてあげたがる男子にモテたいなら、紀伊國屋渋谷店POPに出てた本を読むより、この人のブログ読んだほうが良いと思う。対費用効果も高いし。

これであなたも、サークラになれる!! - あの子のことも嫌いです

 

目上の方々に本を読んでいるというと、やたらと読んでない分野探しをされたり、自分が答えたくない範囲まで読んでる本の内容などを聞かれて嫌な思いをすることがあるので、きちんとした信頼関係が気づけている人以外には「本はあまり読まない」と答えている若者は少なくないのではないかと思っています。
わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる: 「最近の若者は本を読まない」本当の理由

あーこれあるある。本に限らず色んな分野である。こういう人って、相手に本を読んで欲しいという気持ち以上に、相手に自分を見て欲しいという気持ちが強いし、本が好きという気持ち以上に、承認されたいという気持ちが強い。うっかりこういう人に捕まってしまったら、無料ホストか無料キャバ嬢にされてしまうので、こういう人の前では、若者は本の話とかしないよね。なので、こういう人は、「近頃の若者は本を読まない」という思い込みを持ち続けるんだろう。本そのものが好きで、世代を超えて同じ趣味の話ができるタイプの年長者とは、全然違うのね。
そして、これと全く同じことが、男→女でもよくある。まぁ人間、自分が無意識に下に見ている相手に対しては、同じような態度を取るということですね。そして、普段女性に対してこういう態度を取ってしまっている男性は、「女はあまり本を読まない」という思い込みを持ち続けるのかもね。
 
この件で、成海璃子のCD棚が渋かった話と、文化系説教ジジイ(略してBG)の話を思い出した。

「私が好きなものの話をする→『こんな若い女性がわざわざ僕たちの好きなものに目を向けてくれるなんて』と過剰に喜ばれる」あのリアクションに腹立つだけです。「好きなものの話をする→世代を超えてどんどん盛り上がる→あれこれ教わる」は大歓迎。私の周囲はそういう世代違いの友達ばかりなんだぜ。
 
「え、君みたいな若い女の子が×××を好きなの、なんで? 渋すぎでしょ、本当に良さわかってんの? 無理して話合わせなくてもいいんだよ? お父さんの影響? でなきゃ、お、コレか(親指立つ)」まで一息で言う輩をどこから蹴飛ばそう。
Togetter - まとめ「「自分が好きなものを好む若い女子」に対する文化系中年男子の自意識過剰っぷりについて」

皆さん、寒くなってきましたね。毎年、この季節になると周囲の女性から続々と被害届が寄せられるようになります。そう、彼らが動きだしたんです。誰かって? そう「文系説教ジジイ」です。妙齢の文化系女を、うんちくと説教で屈服させ、あわよくば抱こうとしているおっさん達が動き出したんです!
 
職場で、プライベートで、飲み会で…。彼らはいつの間にかあなたをよく見ています。「へえ、若いのにそんな本読んでいるなんてすごいね。ねえ、じゃあ、これは読んだ?」「○○を見ていないようじゃ映画通とは言えませんよ」などと絡んできて、キメ台詞は「君は普通の若い子と違うね」「見所があるよ」
文化系説教ジジイにモテない方法 - Togetter

まぁこの件に関しては、高速で撤収した紀伊國屋渋谷店の担当者より、担当者を擁護する人たちのほうが気持ち悪かったな。
 
あと、このPOPの元になっている「文庫女子」企画そのものについて。

第1回「文庫女子」フェアは、20代〜30代の女性をターゲットに、「女子がファッションとして持ち歩きたい文庫」をテーマに選出された20点を対象に展開します。

「文庫女子」フェアでは、この年代の女性が「食べ物」や「健康」などの流行を毎年生み出していることに着目し、「文庫を持つことがオシャレである」というトレンドを作り出すことを目標としています。

出版社12社と連動し、第1回「文庫女子」フェア開催 - TOHAN website

という文章とともに、「たとえば、香水を纏うように。たとえば、ルージュを引くように。たとえば、ハイヒールを履くように。文庫女子」というキャッチコピーがついている。
まぁ、最近出版不況だし、売り込みに大変なのね、と思うけど、私個人としては、山田ズーニー氏のこの言葉に共感しているので、オシャレとか、オシャレじゃないとか、そういうこととは関係なく人の内面を繋ぐものが、文章表現であり読書だという観点で、本というものを捉えたいと思う。

何も表現しなければ、
ただ見た目とか、年齢とか、学歴とか、
外側の条件でどんどんくくられ、輪切りにされ、
序列化されてしまう。

でも表現教育では、
文章なら文章で、学生も、社会人も、
深い内面を表現するので、

そうした条件をとっぱらって、
友情が花咲いていく。

見た目でひとくくりにされるんじゃなくて、
深い想いを表現して、
地下水で通じ合う。
ほぼ日刊イトイ新聞 - おとなの小論文教室。

香水を纏う人にも、纏わない人にも、ルージュを引く人にも、引かない人にも、ハイヒールを履く人にも、履かない人にも、本の世界は開かれている。むしろ、香水を纏えない時、ルージュを引けない時、ハイヒールを履けない時にこそ、本は役に立つんじゃないかな。私の今までの人生の中で最も文庫が役に立ったのは、入院した時だったからね。
 
「文庫女子」企画に関係あるのかどうかわからないけど、過去記事で自分が書いた文章も載せておきますね。

「着物」を売っているのか「箪笥の肥やし」を売っているのか、「音楽(+ジャケや歌詞を眺める楽しみ)」を売っているのか「光る円盤」を売っているのか、それが問題だ。「着物屋」ではなく「箪笥の肥やし屋」になってしまったところや、「音楽屋」ではなく「光る円盤屋」になってしまったところは、そりゃ衰退して当たり前だろう。
「物」ではなく「物でできること」を買っている

「読むのがオシャレ」ならともかく、「持ち歩くのがオシャレ」って…それじゃ表紙が印刷されたカバー部分にしか商品価値なくなるんじゃ…
 
【「文庫女子」関連リンク集】

このフェアの趣旨であった「本当は女子にこんな文庫を読んで欲しいのだ」という言葉自体からは、共感して欲しいというより、ただ自分の個人的な願望の吐露にしか聞こえてきません。

そういったテーマで書籍を紹介したいのであれば売場では無く個人のブログで紹介するべき類のものだと思います。

売場は商売をする場所であり、ただの願望を具現化する場所ではないからです。
元・紀伊國屋書店店員から見た、渋谷店の「本当は女子にこんな文庫を読んで欲しいのだ」フェア炎上 - Disco BaBangiDa

このフェアの「SFに理解のある女性は100%モテる」という煽り文句を見て思ったんだけど、女性が男性から

「SF好きなの? どんな作品が好き?」

と言われて、

「そうねー、小松左京なら『青ひげと鬼』」

と返したらモテるの? ねえモテるの? そこまで考えた上でのフェアなの、これ?
「こんな文庫を読んでる女性がいたら、それは、まぁ好きになっちゃうよな」への完璧なアンサー - みやきち日記