yuhka-unoの日記

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『できれば服にお金と時間を使いたくないひとのための一生使える服選びの法則』を読んで―基礎は素人には見えない

『できれば服にお金と時間を使いたくないひとのための一生使える服選びの法則』(著者:大山旬)…タイトル長くて覚えられない(笑)。
この本は、弟にあげようかと思って買ったけど、弟自身は特に興味なさそうだったので、私の手元に置いておくことになった。一応、男女両方載っているけれど、基本的には男性服中心の本。大人世代の私服の「基本のキ」「守破離の守」について解説する内容で、たぶん、既にそこを通り過ぎてしまっている人にとっては、「もう知ってるよ」な内容だと思う。一方、ファッション初心者の男性にとっては、有用な内容かと。
前回記事“『女の子よ銃を取れ』を読んで―抑圧からの解放”で紹介した本が、おしゃれの精神面にアプローチした本ならば、こちらは実践面の解説本。初心者がファッション誌だけ見てもおしゃれになれないというのは、よく指摘されることだけれど、それって、初心者が音楽情報誌だけ見ても楽器を弾けるようになれないのと、同じなんだよね。初心者に必要なのは、こういう「ギターの弾き方」みたいな本だと思う。


著者は、「ファッションは誰のためのものか」という章で、

大人のファッションは自分のためのものではなく、周囲の人との関係性をスムーズにするために必要不可欠なものなのです。

というスタンスを示していて、そこらへんは、過去記事『おしゃれ、したかったよね。―服が捨てられなかった私の話―』で書いたように、母親に抑圧されていた自分自身を取り戻すため、趣味であり自己開放を目的としておしゃれをしている私とは、違う考え方なんだけれど、著者は普段、主に経営者や個人事業主向けにファッションアドバイスをしているそうなので、そういう観点からのものだと考えれば、正しいと思う。
私は、身嗜みは社会性やマナーの問題、ファッションは趣味の問題と考えていて、後者は、基本的には、興味がなければしなくても良いことだと思っているけれど、ただ、二つほど例外があると思う。ひとつは、ファッションが仕事の人。これは言うまでもない。もうひとつは、経営者、営業職、芸能人、婚活中の人など、「自分を売り込む」必要がある人。こういう人にとっては、ファッションは、商品のパッケージデザインと同程度には大事だと思う。
ただ、趣味でやるにしても、パッケージデザインでやるにしても、基礎の部分は変わらないんじゃないかと思うのね。その「基礎の部分」の解説本として、近年出版された本の中では、この本はとても有用だと思う。


この本の中で、私が最も重要だと思ったのは、「『ベーシックな服装』の考え方」「服選びが苦手な人はディティールや機能にこだわりがち」「服選びの7割はサイズで決まる」の項目で書かれている内容だ。ここでは、まず二枚の異なるシャツを提示して、「どちらがおしゃれに見えますか?」と尋ねている。1つは格子柄の模様が入り、糸やボタンの色が変わっているシャツ。もう1つは真っ白で装飾性のないシンプルなシャツ。おしゃれが苦手な人は、前者のシャツがおしゃれだと感じやすいけれど、実際に着てみてシルエットがきれいに見えるのは、後者というわけだ。おしゃれが苦手な人は、ぱっと見装飾的なものに惹かれてしまうけど、本当はサイズ感とかシルエットとかが大事という話である。
尚、下のWebサイトで、この部分の内容のほとんどが掲載されているので、紹介しておく。

あなたの見た目を劇的に変える「3つの法則」|できれば服にお金と時間を使いたくないひとのための一生使える服選びの法則|ダイヤモンド・オンライン

服選びは「サイズ」が7割|できれば服にお金と時間を使いたくないひとのための一生使える服選びの法則|ダイヤモンド・オンライン


かつて、私の知人の音楽家さんが、「速弾きとかするとウケたりするのかもしれないけど」「楽器演奏の快感に浸りすぎると、『超気持ちいいーw』という段階で成長が止まってしまう」「ドラムで一番大事なのはリズムキープ」というようなことを言っていたけれど、ここで書かれていることが、その音楽家さんが言っていたことと、色々な部分が共通していて、関心してしまった。
たぶん、他の分野でも、その分野に対するリテラシーがない人は、ぱっと見の表層的なものに注目してしまうけれど、本当に大事なところはそこじゃないんだ…っていうのは、よくあることなんだろうね。絵を書くにしても、紙の上で自由になるには、デッサン力を養って、ものの形を掴んでアウトプットできるように練習をする。前衛的な抽象画を書くにしても、写実的な風景画を描くにしても、その能力があってこそという部分は同じだ。
結局、音楽でも絵でもファッションでも、基礎が大事だし、また、その分野の素養がない素人は、表面上のディティールばかりに注目してしまいがちで、なかなか基礎の部分を認識できないということなんだろう。


本の冒頭で、著者は、「服選びが苦手な人」として、「無頓着型」と「独自センス型」がいると言っているが、「超気持ちいいーw」で止まってしまう人は、ここで言うところの「独自センス型」に当たると思う。「独自センス型」って、経験が積み上がっていかないんだね。趣味でやっている分には「独自センス型」でも構わないけど、それ以上上手くなっていきたいと思うんだったら、やっぱり基礎の部分をやったほうが、「独自センス型」でやるよりも、もっと自由にできるようになるのは、どの分野でも同じだ。そういう意味では、「独自センス型」は、一見自由なようでいて、実はそれほど自由じゃないのかもしれない。
「型がある人が型を破ると『型破り』、型がない人が型を破ると『形無し』」という言葉があるけれど、ファッショナブルな人は「型破り」、そうでない人は「形無し」ということなのかもね。どの分野でも、守破離の守の段階で躓いてしまうのが、「センスがない」と言われる人たちなんだろう。よく「ファッションはセンス」と言われがちだが、音楽や描画は学校で習うことがあるけれど、ファッションは学校では習わないので、基礎の部分が多くの人にはあまり理解できず、「センス」で片付けられてしまう傾向が強いのかもしれない。

 
あと、著者は「服選びはふつうが一番」と言っていて、これもやはり、経営者や個人事業主や婚活の装いなら「ふつうが一番」という意味なんだろうけど、ただ、「ふつうを知る」のが大事なのも、色んな分野に言えることなんじゃないかと思った。これは、「全体の中で、中間(ふつう)レベルはこのくらい」という意味ではなく、「『ふつうに良い』とは、こういうこと」という意味で。要するに「基本形を知る」ということだ。
アバンギャルドな方向をやるにしても、「ふつう」とは何かを知っておく必要はあるだろうし、あえてオーバーサイズの服を着るというおしゃれをするにしても、自分の適性サイズを知っておく必要があるだろうしね。あえてのオーバーサイズと、自分の適性サイズがわからなくてダボダボ状態は、違うということで。
そう考えると、著者の言う「ふつう」は「正統派」に近い意味なのかもしれない。ただ、私自身もファッションの傾向が正統派の人間だから思うのだけれど、「正統派」って、実は「多数派」じゃなかったりするんだよね。そういう意味では、「正統派」は案外「ふつう」じゃないと思う(笑)。


この辺の話は、これとも共通しているかもしれない。

“人間、自分よりもレベルが高すぎる人のことはわからない。”
本当におしゃれな人ほど、大しておしゃれに見えないという話-おしゃれになる方法


さて、基礎と基本に関しては概ね正しいと思う『一生使える服選びの法則』だけど、女性の靴に関する記述については、不満な点がある。7cmヒールのパンプスを着こなしに取り入れるよう勧めているところだ。

高い靴はあまり履かず、ほとんどフラットシューズで過ごすという方も少なくないかと思います。しかしそれ一辺倒になってしまうのはとてももったいないことです。

7cmヒールというのは、女性の脚を美しく見せてくれる効果があります。7cmヒールですと歩きやすさも兼ね備えていますので、ぜひ積極的に取り入れていただければと思います。

これに関しては、正直な感想を言うと、「いっぺん7cmヒールのパンプス履いて1日過ごしてみろやああああ!!」だね(笑)。いや、「7cmヒールですと歩きやすさも兼ね備えていますので〜」と書いてあるからには、もしかしたら、著者は実際に履いてみたことがあるのかもしれない。ただ、その場合は、著者が、男性にしては足が小さく、普通に展開されている女性用パンプスでも問題なく履けました、というのではない限り、自分のサイズに合った、履いていて疲れないパンプスを探す過程で、足のサイズ的に「規格外」な女性たちと同様の、色々な工夫が必要だったはずだから、そこのところが書いてあれば、私にとっても、大いに参考になったんだけどなぁ…


あと、女性の場合、「いつも選んでいるサイズを疑ってほしい」は、ブラジャーに関しても言えると思う。自分のブラジャーのサイズを間違えている人って多いらしいし。体型が変わると胸のサイズも変わるしね。

Cカップの土偶女が突然Fカップになった時の話 - bswbp0916's diary


そもそも、「大人のファッション」って何なんだろう。私が考える「大人のファッション」は、「自分に向き合えていること」かな。自分の外面、つまり、容姿や体型を過剰に卑下したりすることなく、冷静に見つめられるということと、自分の内面、つまり、自分は何を着たいのか、その服を着ることで何を得たいのか、その服を着ると自分と周囲はどう変わるのかを、冷静に見つめられるということ。完璧にはできなくても、そうしようとすること。その結果が、万人受けする格好になろうと、多くの人には理解されない格好になろうと、それはどちらでも良いんだと思う。というか、これ人生全般そうだよね。
そして、私自身の考えとしては、やっぱり、ファッションはまず自分のためのものだと思う。というか、そうであって欲しいという願いもあるのだけれど。なぜなら、女性にとっては、自分の体が自分のものではなかった歴史が長くあることから(黒人もそういう歴史があるよね。)、「私の体は私のもの」と言うことは、とても大切なことだからだ。いくら、自分の体が自分で直接見ることができないものだとしても、自分の身体は自分自身のものであり、他人のためにあるものではない。
でも、自分のために服を着ることと、他人を思いやることは、矛盾しないんじゃないかと思う。例えば、(親などの)誰かにとって都合のいい人を演じさせられ、嫌われまいと他人に対して気を遣い、心を閉ざしている人と、「嫌われてもいい。全ての人に好かれるのは無理だ」と自己開放し、自分の人生を生きている人とでは、本当の意味で他人を思いやれるのは、後者の人だからだ。


なお、著者の大山旬氏は、最近新しい著作を出されたそうだ。私はまだ読んでないけど、男性向けファッション指南本としては、もしかしたらこっちのほうが良いかもしれない。タイトルも短めだし(笑)。

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