yuhka-unoの日記

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私の個人的音楽史と、現代の日本音楽業界について思うこと

私が10代の頃は、安室奈美恵華原朋美、SPEED、MAX、ポケットビスケッツブラックビスケッツSMAPなどの全盛期だった。しかし、私は実際のところ、あまり流行りの音楽に興味はなかった。学校の友達に「どの歌手が好き?」と聞かれたら、一応「安室奈美恵が好き」などとは言っていたものの、それは単に話を合わせるために言っていただけであって、本気で好きなわけではなかった。あの時代の音楽は、友だちと話を合わせるための材料や、カラオケで皆で盛り上がるための材料として機能していたと思う。
インターネットが十分に普及していなかったあの頃は、周囲に音楽通の人がいない限り、接する音楽といえば、学校で習う音楽かテレビやラジオで流れてくる流行りの音楽ばかりで、実質そのどちらかしか選択肢がなかった。
なので、10代の頃の私にとっては、たまに良いなと思う音楽もあったものの、全体的にはそのどちらにもたいして興味は持てず、音楽というものはそれほど魅力的な存在ではなかった。ただ、TSUTAYAで父が勧めてくれた「雨に唱えば」という映画はとても気に入って、それ以来、「マイ・フェア・レディ」や「紳士は金髪がお好き」などのミュージカル映画を好んでレンタルしていた。今から思えば、私の音楽の好みはこの辺りにあったようだ。
 
我が家にパソコンが来たのは10代の終わり頃だったと思う。私はどっぷりインターネットの世界にはまってしまった。Youtubeなどの動画サイトもその頃から見始めた。Youtubeには古今東西の様々な音楽の取っ掛りが豊富にあって、それまで限られていた音楽の選択肢が一気に増え、私は自分の好みに合った音楽を発見することができた。また、友達と話を合わせるために何かを好きなフリをする必要がなくなっていった。自分の周囲ではマイナーな趣味も、ネット上では同じ趣味の人と繋がれるからだ。個人的にインターネットが普及して良かったことの一つは、音楽が楽しいと思えるようになったことだ。
そんなわけで、世間ではネットが普及してからCDの売上が落ち込み、「CDが売れない」「若者の音楽離れ」などと言われているが、私の場合はむしろ逆で、CDを買う機会が増えた。近所のCDショップに置いてなくても通販で買えるからだ。そして、流行りの新曲を買う必要性はますますなくなっていった。
 
今の日本の音楽業界が衰退した原因は、インターネットの普及にあるというのは間違いないと思う。人々がYoutubeなどの動画サイトで音楽を聞くようになってから、新曲の求心力は衰えた。というより、そもそも既存のマスメディア自体の求心力が衰えているのだと思うが。
ただ、聴き手としては選択肢が増えてとても良い時代だと思っている。逆に言うと、今の時代の音楽家は、現代の音楽同士の競争だけでなく、過去の音楽とも競争しなければならないということなのかもしれないが。
 
最近、高岡蒼甫氏のTwitter上でのつぶやきをきっかけに、「フジテレビが韓流をゴリ押ししている」という、陰謀論めいた騒動が広がったが、K-POPが日本音楽界に進出しているのは、アメリカでハリウッド映画界が衰退して、日本のアニメや映画が進出しているのと似ている気がする。
ハリウッドの手法は、試写会などをやって市場調査をしてアンケートを取り、一番人気の選択肢を採用するのだとか。そのアンケート結果によって、映画の登場人物像や結末が大きく変更されることもあるのだという。このような大衆の最大公約数を狙うやり方は、短期的に見れば確実に売れる手法だが、新しい価値観が生まれてこないので、長期的に見ればネタ切れを起こして衰退を招いてしまう。
ネタ切れを起こしたハリウッド映画界は、日本映画のリメイクや、日本原作作品の映画化を次々と作るようになった。だが、日本原作作品をハリウッドが映画化すると、大抵原作からかけ離れたものになってしまい、ファンががっかりすることになる。これは、自らがネタ切れを起こしてしまった手法を、そのまま日本原作映画を作る時にもやってしまっているかららしい。
たぶん、今の日本音楽界も似たようなもので、K-POPが日本に進出して来たのは、既に日本のメジャー音楽界が衰退していたからだと思う。そして、売り出し方自体はこれまでと変わらない手法なので、K-POPが日本で売れたとしても、日本のメジャー音楽界全体では衰退が止まらない。とにかくテレビの露出度を高くして「売れている」「今人気」と錯覚させるやり方は、短期的に見れば利益があるのだろうが、長期的に見ればますます衰退を招いてしまう手法だと思う。
 
人々がYoutubeニコニコ動画などの動画サイトに流れて、メジャー音楽界にあまり興味を持たなくなったのは、自分が今まで好きだと思っていた音楽は、実はマスメディアに好きだと思い込まされていただけで、自分で選びとったものではなかったということを、それらの動画サイトが気付かせてしまったからだ。以前は選択肢が限られていたから、人々がそれで満足してしまっていた部分もあったのだろう。
そんな時代に、マスメディアのあからさまな押し付けの売り込みには、手法の「古さ」を感じてしまう。結局マスメディアは、新しい時代に対応するのではなく、これまでの古いやり方をますます強化する方向に走ってしまった。テレビがブームを作っていた90年代以前の成功体験を引きずってしまっているのだろう。多様性の時代にあって、現代のメジャー音楽界はジャンルが偏ってしまい、むしろ多様性がなくなっているような気がする。今現在マスメディアが押しているグループのファンなら良いのだが、それ以外の人々は、ますますマスメディアから離れて行くだろう。

宣伝というのは、ある程度までは非常に有効ですが、限度を超えてしまうと逆効果にしかなりません。宣伝を受けた人間が、その内容とは逆方向に態度を強めることを心理学では、逆効果現象。ブーメラン効果といいます。人間というのは、あまりしつこく勧められると、逆に反発してしまう性質があるのです。
http://psychological-jp.com/column/p5.html

実際のところ、私は日本で売り出し中のK-POPアイドルは好きではない。(「日本で売り出し中の」と書いたのは、本場韓国音楽界では、まだ私が知らない、私の好みに合う音楽があるかもしれないからだ。)また、同じような理由でAKB48も好きではない。商品そのものに罪はないが、商品を売りつけて来る人のしつこさには辟易している。
 
結局のところ、あれは「韓流のゴリ押し」ではなく、ただの「ブームのゴリ押し」だし、「若者の音楽離れ」も、正確には「若者の新曲離れ」なのだろう。自分で好きなものを選びとることを覚えてしまったネット世代に、旧来の成功体験に囚われて、ブームを無理矢理作り出そうとするメジャー音楽業界の手法が、全くかみ合っていないだけだ。
 
で、音楽業界やマスメディアの都合を一切考慮せずに、私が「こういう音楽番組があったら見てみたい!」というものを勝手に妄想してみた。
一つは、まだ一般的な日本人には知られていない「良い音楽」を紹介する、「音楽のソムリエ」的な番組。外国では評価されてるけど日本ではまだ知られていないとか、インディーズで面白い音楽家とか、とにかく見ている人に「こんな音楽があったんだ!」と思わせることを目的とした番組だ。
もう一つは、毎回一つの音楽ジャンルに絞って、そのジャンルの成り立ちや歴史を紹介する番組。単純に音楽を流すだけではない、「音楽史」という知的好奇心も満たされる。普段自分が好んで聞いている音楽でなくても、「音楽史」という要素が入って来たら、興味を持って見ることができるだろう。そこで「こんなジャンルがあったんだ!」という発見ができれば尚良い。
 
私がインターネットに触れて音楽に興味を持った時に思ったのは、「世の中には、私が好きになれるような音楽がいっぱいあったんだ!今まで音楽にあんまり興味なかったのは、自分が気に入るような音楽に出会えてなかったからだったんだ!」ということだった。そういう驚きと巡り逢いを与えてくれるような音楽番組があれば良いのだけれど。マスメディアに視聴者を合わせようとするのではなく、マスメディアが視聴者に合わせようとするような、そういう番組が見たいんだよね。
まぁでも、現状それができていないということは、私の知らないところで、業界にそれができない事情があるということなのだろう。だいたい、「視聴者」って書いたけど、主語が大きいだけで実質「私」だしね。それに、結局自分が気に入るものは自分で探しに行かないとね。Pixivランキング見て、「腐絵ばっかりで自分の好きな絵がない!」って言ってるようじゃダメだよね。というわけで、私はやっぱりYoutubeニコニコ動画を見ることにしよう。
 
 
【おまけ:私がインターネットで出会ったお気に入りの音楽】
 
Max Raabe & Palast Orchester
ドイツ人ボーカル、マックス・ラーベと、12人編成のオーケストラ。
主に1920〜1930年代のヨーロッパの流行歌を、当時のスタイルで再現している。

 
Max Raabeが歌うSex Bomb(3:30から)
現代曲の1920〜1930年代風アレンジ…らしい。
おそらく変態紳士とはこういうことを言うのだろう(笑)

 
1300年前の音楽の再現を目的としたグループ「天平楽府」
正倉院宝物の楽器を復元し、古代の琵琶譜からの復元曲や創作曲を演奏している。
これは東大寺大仏殿前でChieftainsなどとコラボした時の映像らしい。

 
 
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