yuhka-unoの日記

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ドクター・ワトスンの才能

シャーロック・ホームズとドクター・ワトスンの物語は、世界一有名な推理小説だ。私も学生時代、アルセーヌ・ルパンや明智小五郎と共に夢中になって読んでいた。
 
さて、ホームズに才能があるのは当たり前だが、ホームズがあまりにも天才すぎるせいで、ワトスンはどうにも過小評価されがちだ。元軍医だから運動神経もそれなりにあるのに、ホームズの運動神経が良すぎるせいで、ワトスンは愚鈍扱いされてしまう。医師という知識階級で頭も決して悪くないはずなのに、ホームズの頭が良すぎるせいで、ワトスンは頭が悪い子扱いされてしまう。ああ、可哀想なワトスン。
しかし、ワトスンにも実は他の人には無い才能がある。それは、他人の能力を引き出す才能だ。
 
ホームズは、表向きは他人と無難に付き合えるだけの社交性は持ち合わせているものの、根は奇人変人だ。部屋は散らかすし、自室で化学実験はするし、煙草は吸いまくるし、暇になると麻薬に手を出したりピストルを壁に向かって撃ったりする。しかも、彼を訪ねて自宅に押し寄せる客が曲者だらけだ。並の人間なら到底一緒に住むことなどできないだろう。
ホームズの友人と言えば、ワトスン以外には、学生時代のヴィクター・トレヴァーという人物が出てくるぐらいで、他には友人らしい友人が見当たらない。おそらく、深く付き合えば付き合うほど付き合いきれなくなって、ホームズから離れていく人も多かったのではないだろうか。
ところが、ワトスンはそんなホームズと一緒に住めてしまって、しかも深く長い友人関係まで結べてしまうのだ。
 
人によっては、ホームズと付き合ううちに、その才能よりはむしろ欠点のほうが気になってしまい、欠点を指摘せずにはいられなくなってしまうかもしれない。しかし、ワトスンはホームズの欠点に寛容な態度で接し(麻薬だけは長年かかって辞めさせたらしいが)、ホームズの才能に素直な敬意と好奇心を持って、彼の周囲で起こる事件に付き合っている。もしかしたらホームズは、ワトスンという良き理解者がいたからこそ、水を得た魚のように己の才能をフルに発揮できたのかもしれない。
 
世の中には、一緒に居る相手の才能を潰してしまう人もいれば、一緒に居る相手の才能を伸ばす人もいる。天才が才能を発揮するとき、その天才の側には、人の才能を伸ばす天才がいるのかもしれない。