yuhka-unoの日記

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残念な女性向け商品が作られてしまう「ダサピンク現象」について

最近、Twitterで「ダサピンク現象」という言葉がちょっと広まって、(一応)名付け親である私としては嬉しいのだけれど、誤解している人も多そうなので、この辺りでエントリを書いてまとめておこうと思う。
 
「ダサピンク現象」は元々この辺りの話から始まった。

「ピンク=女性向け」? - Togetterまとめ

ここでは、「女性向け」ということでデザイナー職の女性たちが考えたデザインを、上層部のおっさんが「女性ならピンクだろ」と言ってダサいデザインに差し替えてしまうことや、実際に街を歩いている女性の服装のうち、ピンクの割合はどれくらいだと思ってるんだとか、一口にピンクと言っても色々なピンクがあり、おっさんが思う女性向けピンクと、実際に女性から好まれるピンクは違うとか、そういう話が展開されている。
 
それを受けて、私はこういうTweetをした。

なぜ出来が残念な結果になるのかというと、「女性ってピンクが好きなんでしょ?」「女性ってかわいいのが好きなんでしょ?」という認識で作られた商品の場合は、「肝心のデザインがダサいから」であり、「女性って恋愛要素入ってるのが好きなんでしょ?」「女性ってイケメンが出てくるのが好きなんでしょ?」という認識で作られたドラマの場合は、「肝心のストーリーがつまらないから」である。
もちろん、女性の中にも、ピンクで可愛くてフェミニンなものが好きな人は、一定数いる。だが、こういう好みを持った人たちは、パンクファッションが好きだったりモード系が好きだったりするのと同じようなもので、当然、全ての女性に当てはまるわけではないし、自分の好きなものに対してこだわりを持っている。ピンクで可愛くてフェミニンなものが好きな層にアプローチするのは、パンクファッションが好きな層にアプローチする時と同じで、ナメてかかってはいけない。その層を狙い撃ちすることを意識して作られたものと、漫然と「女性ってピンクでかわいいものが好きなんでしょ?」という認識で作られたものは、やはり違うと思う。
 
ドラマでも、恋愛モノが好きな人は一定数いる。だが、恋愛モノが好きな人たちは、ドラマの中で必然性もないのに出てくる恋愛要素に、満足したりするのだろうか。もしこれが、ホラー好きな層やアクション好きな層にアプローチしようとする場合は、がっつり本気でホラーものやアクションものを作ろうとすると思う。恋愛モノが好きな層にアプローチするのなら、当然、がっつり本気で恋愛を描いたものになるだろう。むしろ、恋愛モノが好きだという人ほど、ドラマの本筋とは関係ないのに入れてみただけの恋愛要素なんて、ないほうがマシだと思うのではないだろうか。
アラサーちゃん 無修正』第一巻の中に、「アラサーちゃん、チーズケーキ好きなんでしょ?買ってきたよ!!」「チーズケーキを愛しているからこそ… コンビニで100円で売ってるパッサパサのチーズケーキもどきは食べたくないのに!!」というネタがあったが、そういうことだと思う。
イケメン俳優に関しては、たぶん、その俳優のファンで、出ているドラマを全部チェックしているとか、そういう人でない限り、イケメン俳優が出ているというだけでは、あんまり見ないんじゃないかな。
 
ピンクというのは、実のところ、「女性が好む色」というよりは、「女性(用)であることを表す色」なのではないだろうか。信号の赤が「止まれ」、青が「進め」を表しているように、ピンクは、女であることを表す記号としての色なのではないだろうか。

海外の反応 - 日本のアニメ・キャラクターは白人に似せているわけではありません!

上の記事では、ただの棒人間を見ると、人は、その人の国で「標準」とされている人種だと認識してしまう現象が説明されている。白人社会の人は、ただの棒人間を見ると、それを白人だと認識してしまい、これを別の人種だと認識するには、棒人間に何か別の要素を付け加える必要があるように、人種的特徴のないアニメ・キャラクターを見ると、白人社会の人は、それを白人だと認識してしまうということだ。
これと同じことは性別でも起こり得ると思う。私たちの社会では、ただの棒人間を見ると、これの性別は男だと認識してしまう人が多いんじゃないだろうか。棒人間を女だと認識するには、リボンなり長い髪なりスカートなり、何か女であることを表す要素を描き足す必要がある。つまり、私たちの社会では、「標準」の性別は男だと認識されているのではないだろうか。
こうした認識があるがゆえに、わざわざ女性向けのものを作ろうとする時に、わかりやすい記号としての「ピンク」を使ってしまうのかもしれない。この場合、デフォルトの商品は、男性向けまたは性別を問わないものと認識されているのだろう。反対に、化粧品やスイーツなど、デフォルトが女性向けとされている商品の場合、男性向けに作る場合は、わざわざ男性向けであることを強調するようなデザインになってしまうのはあると思う。
 
あと、多くの人が「男性」と聞いて思い浮かべるものが、性別的な意味での男性であるのに対して、多くの人(とりわけ男性)が「女性」と聞いて思い浮かべるものが、若くて可愛い女性だというのも、ダサピンク現象の原因になってると思う。一体、若くて可愛い女性は、女性全体の何%なのか。若くてイケメンの男性が、男性全体を表しているわけではないように、若くて可愛い女性も、女性全体を表しているわけではない。
おっさんの頭の中にあるステレオタイプな女性像に向かってデザインされているのであって、実際の女性に向けてデザインされているのではないことが、ダサピンク現象を生む原因になっていると思う。もっと言うなら、「女性にはこういうデザインを好んでいて欲しい」という男性の願望が、ダサピンクなデザインに反映されている部分もあるのではないだろうか。
ちなみに、中原淳一は、淡紫(藤色)を「最も女性的な色」と言っていた。
 
【ダサピンク現象関連リンク集】

脱ダサピンク宣言ーその1 | Short Note
脱ダサピンク宣言ーその2 | ShortNote

「ダサピンク現象」という言葉を取り上げて書かれたエントリ。女性デザイナーが女性向けに作ったデザインに、おっさんが「女性向けじゃない」と言ってダサピンクに差し替えた話や、「生理予測アプリ」「女性向け スマートフォン」などのキーワードで画像検索した結果と、実際に多くの女性から支持を受けている「OZマガジン」「ことりっぷ」などとの比較について。

絵日記★「ダサピンク」描いてみた!|カキレイ★ブログ -「性同一性障害」(FTX)や「無性愛」エッセイweb漫画とオタク日記-

「女性をターゲットにした家電の取り扱い説明書」を想定したダサピンクデザインの例。

「わたしたちはClueを開発するとき、何百人もの女性の意見を聞きましたが、誰もアプリがピンクであるべきだと考えていませんでした。実際、ユーザーのほとんどが、Clueのデザインはより大人っぽく、スマートで、すっきりしているという感想を述べてくれます」
排卵期予測アプリ「Clue」がデザインにピンクを使わない理由 « WIRED.jp

「自動車メーカーの男性社員は、女性は丸っこくってピンク色っぽいかわいい車が好きだと決めつけてきましたが、とんでもない誤解でした」
アンケート用紙に、女性たちの信じられない本音が記されていたのである。
「黄色ナンバーだからってナメられたくない」
「信号待ちで登録車に負けたくない」
女性は「かわいい車」に乗りたがり、走行性能には興味がないというのは完全に男の思い込みにすぎなかったのだ。実際、N−ONEの総販売台数のうち、実に30%がターボ付きだという。
ホンダのNシリーズが女性に大ウケ 「かわいいピンク好き」はとんでもない誤解 (1/4ページ) - SankeiBiz(サンケイビズ)

半沢直樹」は、これまでのドラマ界の常識で考えると、登場人物に女性が少なく、わかりやすく視聴率を取れるキャラクターもおらず、恋愛もないという「ないないづくし」。それに銀行という“男”の世界が舞台です。セオリーどおりなら、ドラマのメインターゲットと言われる女性は「見ない」ということになりますよね。
(中略)
でも、いざ、フタを開けてみたら、女性が見ていた。テレビの常識がいかに適当だったか、マーケティングというものがいかにアテにならないか、ということでしょう。
監督も想定外!「半沢直樹」メガヒットの裏側 | あのヒット番組、作ったのは私です。 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

ドラマ「半沢直樹」に関しては、おじさんの「女性ってこういうのが好きなんでしょ?」が良い感じに排除され、ドラマそのものの面白さが追求された結果なんじゃないかと思っている。「相棒」もこの手のドラマかと。ただ、半沢の妻「花」の描写に関しては、原作のキャラクター設定を全く変えてしまったせいか、おじさんの旧い女性観が反映されてしまい、ドラマの中でも浮いていたと思う。
 
ところで、以前、NHKのテレビ番組「週刊ニュース深読み」で、昨今の消費しないと言われる若者の消費を促すにはどうしたら良いのかというテーマで話し合っていた時に、最後の最後で、ある女性出演者が「せっかく若者向けに良い提案をしても、上のおじさんに潰されてしまうんですよ!」と言っていたが、これはまさしくダサピンク現象と同じ構造だと思った。結局、日本の企業の上層部がおじさん社会で、女性向けにしろ若者向けにしろ、おじさんに受け入れられる企画しか通らないことが問題なのかもしれない。
 
―映画「パリの恋人(Funny Face)」より「Think Pink」―

 
 
〔追記〕

続きを書きました。
続・「ダサピンク現象」について―だから、「ピンクが嫌い」って話じゃなくてさぁ…